REVIEW

《 パレードの馬 》レビュー

新国立劇場小ホールで「DanceExhibition2008―Dancemeets Music―(9/6~9/15)」が開催され、本劇場で作品を発表した事のない、6人の日本人アーティストが登場した。内3人の作品が上演された、Bプログラムを紹介する(14日)。映像とダンスを融合させた川口ゆい、力強いバイオリンの生演奏で踊った加賀谷香、ストリートダンスで現代社会を描いた上島雪夫は、各々客席を湧かせたが、突出していたのは加賀谷のソロ作品 『パレードの馬』であった。

加賀谷の作品はBプロの第二部。幕が上がると、舞台手前には数本の細いライトが、客席に向かって落ちている。薄暗いステージ中央の、天井から吊り下げられたネットで、丸く区切られた空間は馬場であろう。中で横 たわる加賀谷を、スポットライトが照らす。腰の下まで大きく開いた朱鷺色の衣装が、見事な筋肉のついた背 中を引き立てる。やがて彼女は慎重に立ち上がり、歩き始める。

―――加賀谷は一頭の、荒々しく美しい馬であった。

馬は歩き、嘶き、倒れる。加賀谷は骨盤を極端に前屈させ、四足動物が二本足で伸び上がるように爪先立ちし、ぶれる事なく次のバランスへと繋ぐ。無表情だが、汗に濡れた迫力のある背中が、饒舌に感情を物語る。馬場の外側を歩き回りながら演奏する、太田恵資の民族音楽のような唄声と、バイオリンの音色が、閉じ込め られた野生動物を、生かし続けようと駆り立てる。骨格の造作を確かめるような丁寧な動きは、徐々に緻密さ を増し、馬はついに力を獲得した。

暗転した会場に明かりが戻った時、ネットは舞台前面を覆っていた。立場が逆転して、馬場の中に閉じ込め られたのは、観客である我々なのだと気付く。草原に解き放たれた馬は、身体をよじって飛び跳ね、彼女自身の祝祭に歓びを爆発させる。一瞬馬場の中の観客を振り返った後、パレードの音楽を連れて、馬は彼方に去って行った。

--- 中略 ---

持っている技術を的確に観客に紹介し、手堅く纏める事が、川口と上島の作品に優先されているように感じ られた。しかし、自己PRという次元を超越した所に、魂を揺さぶる作品は生まれる。加賀谷の『パレードの 馬』の成功に、喝采を送りたい。

舞台批評塾 森本 ゆふ


《 パレードの馬 》レビュー

加賀谷香...新世紀の日本を代表する秀逸なソロダンスの一つ、その意義

~(社)現代舞踊協会主催〈現代舞踊公演〉~

最後を締めくくった加賀谷香の「パレードの馬」 は定評のある作品だ。中央アジアのテントを思わせ る舞台美術の中で女が踊りだす。太田恵資のバイオ リンが空間を彩っていく。呼吸をするように、時に は大地と向かい合い、人から動物へ、女は緩やかに 表情を変えていく。踊りの姿を通じて普遍的な時空 が表現された。新世紀日本を代表する秀逸なソロダ ンスの1つだ。

遠い将来から見て大きな意義がある記憶されるべ き公演であるように思う。

新国立劇場小劇場 吉田 悠樹彦


《 パレードの馬 》レビュー

加賀谷香『パレードの馬』。これは池田作品の対極にある。三十分を超えるが出演は彼女とバイオリン奏者太田恵資のみ。上から吊されたネットに囲まれた内部に加賀谷、外部に音楽家。照明がネットに複雑な陰影を与えている。タイトルからは威風堂々の馬がイメージされるが、舞台は全く逆。馬を思わせる雰囲気だが、初めはほとんど動かずに心中でもがき、悩んでいるように見える。むしろ周囲を回るエスニックな音楽の動きが目立つ。次第に加賀谷の動きも大きくなるが、薄暗いスペースからは出ない。それが極限に達するとき、音楽も心をかき乱し、最後にネットが崩れて彼女はその外で倒れる。動きを抑えた骨太な手法が空間の密度を高め、彼女の強い思いへの理解と共感を強めている。

新国立劇場小劇場 うらわ まこと


《 Blue Tale −「パレードの馬」作品ノートより− 》レビュー

--- 前述略 ---

この舞台ではクラシックバレエからコンテンポラリーダンスまで幅広い、多様多彩な演目が10、一つの演目はおよそ10~20分程度という内容。5番目と6番目の間に休憩が15分あるが、それ以外の演目同士の合間がほんと短く、終わったと思ったら次の演目が始まるというようなペース。このDADA10で特に好きだったのが4番目、加賀谷香さんが振付の舞台「Blue tale」。演劇的要素が入ったコンテンポラリーダンスのこの舞台は、短い時間の中に明確な演出と舞台効果によって、とても完成度が高く感じられた。そこにはドロドロとしたものをなんとか掬いあげて昇華させようとする意志、感情が 舞台から感じられた。もっとこの人の舞台を見たいなと素直に思う。

新田慎二 / NitaShinzi


《 パレードの馬 》第27回 江口隆哉賞 受賞理由より

文化庁芸術団体人材育成支援事業・現代舞踊公演(2009年12月15日、16日新国立劇場小劇場)における自作ソロ作品『パレードの馬』は、吊るされたネットや照明によって重く閉ざされた空間を設定、そこにおける強靭、かつ柔軟な動きと、場を変化させる演奏家(ヴァイオリン・太田恵資氏)の音楽によって、心の深い闇との葛藤、相克を的確に表現した。前年に初演した作品だが、それをさらに練り上げ、2009年度最大の収穫となった。他にも作家、ダンサーとして多くの公演に参加、年間をとおして卓越した成果をあげた。

第27回 江口隆哉賞